幼年期の終わり

 

 クラークの代表作の幼年期の終わりを読了。不朽の名作のSF小説といえば、ジョージ・オーウェル1984オルダス・ハクスリー素晴らしい新世界だが、僕は断然、クラークの幼年期の終わりが好きだ。まず、彼の生き方が好きだ。祖国の国のイギリスを離れてスキューバダイビングを愉しむのを理由にスリランカに移住した。スリランカで生涯を終えた。

 

 クラークの小説には童心に返ったような純粋さがある。SF小説と言ってもハードなSFではないので文学だと思って読める。幼年期の終わりは1953年に完成されたが、クラークが予測した21世紀初頭の未来には何があったのか。僕たちは今まさに2022年、クラークが予測した未来に生きている。クラークの先見性はすごい。人工衛星を使ってテレビを放送するアイディアは正に現代では実用化されているし、自動食洗機は一般の家庭にはお馴染みだ。ただ、自家用ジェット機はまだまだ一般には普及されていない。作品の中でパーティーに参加する為に自家用ジェット機で参加者は招待主の邸宅に向かうが2022年では日常ではあり得ない。いつかこの先、そんな未来が待っているのかもしれないが。一般の家庭に専用の駐機場があるなんてすごい設定だ。

 

 南アフリカにある大学に進学予定の青年ジャンが宇宙船に密航する話が面白い。突如、世界中の大都市の頭上に現れた宇宙船。オーヴァーロードと呼ばれる地球外知的生命体が人類を支配しようとする。彼らの故郷の母星に一時帰国する宇宙船にジャンは密航した。船の密航ならよくある設定だが、宇宙船というのが面白い。オーヴァーロード達の住む星は地球とは全く異なっていた。彼らは殺風景なビルに住み出入口は陸か離れた高さにあった。オーヴァーロード達には羽が生えていて空を飛べるのだ。人類よりも一回り大きく、先が三角形の尻尾を持った悪魔のような風貌の彼ら。

 

 この宇宙のどこかに別の惑星があって異星人が住んでいると思うとワクワクする。空想するのが面白い。夢があっていい。ジャンは宇宙では半年しか経過していなかったが、宇宙船で地球に帰ると地球の時間では80年が経っていた。光速の問題だ。荒廃した地球。もう人類は絶滅危機に瀕していた。十歳以下の子どもたちが残っていたが、もう人格は無く得体の知れない物体になっていた。人類の最期の一人になったジャンはオーヴァーロード達に地球の消滅を伝えた。クラークの動物への愛情も感じられた。スペインの闘牛の文化を動物の無駄な殺生だと認識して廃止に追い込もうとする話がいい。