白い病

 

 カレル・チャペックの白い病を読了。阿部賢一氏による新訳である。1937年刊行の作品で、肌に大理石のような白い斑点が出来る感染病が人類を危機に陥れる、まさに現在の新型コロナのパンデミックと同じ状況だ。一方でこの戯曲では戦争による武力による勝利で世界を支配しようとする元帥がいる。その人物はヒトラーをモデルにしているのだろう。理性を失った大衆の熱狂と激情が人類を破滅に導く設定は非常に示唆的だろう。第二次世界大戦を予言している。この戯曲が刊行された当時は戦争がいつ始まってもおかしくない時期だった。チェコスロバキアは解体されナチス保護領になった。

 感染病の特効薬を開発した町医者のガレーン博士はとても誠実な人柄だ。戦争を続けようとする元帥にもし、特効薬が欲しかったら世界中の国と平和協定を結んで戦争を終わらせろと訴えかける。実は元帥自身は既に白い病に感染している。元帥は理性的な一面があり博士の話に最終的に従うが、完全に理性を失った大衆により博士は殺される。残された未来の担い手は元帥の娘とその恋人だった。若い世代が未来を切り開いていく。

 人類は同じ過ちを繰り返さないように歴史から学ぶことが大切なのだと思った。本書は新型コロナウイルスが猛威を振う中、訳された。ミハイル・ブルガーコフのような作風で近未来的で面白かった。