コンゴ・ジャーニー

 

 物凄い密度が濃い探検記。四半世紀前に書かれた本だが全く色褪せない面白さがある。幻の恐竜を求めてコンゴの湿地雨林を探検する。物語はコンゴ民共和国(現在のコンゴ共和国)の都会のブラザビルから始まる。そこから一気にコンゴ川の上流を遡る。水路は丸太船を使い、陸路はピグミーに案内してもらう。この探検記は決して一人では実行不可能だ。地図にも乗っていない森深くに進む。仲間がいないとまず無理。アメリカ人教授の相棒がいるし、心強い味方のコンゴ人のマルセランがいる。分からない事があればフランスとキューバに留学経験のあるマルセランが教えてくれる。

 

 コンゴの人々にオックスフォードで買ってきたタバコやナイフ等のお土産を用意してくる著書に好感が持てる。オハンロンのアフリカ人への人種的偏見がないのは喜ばしい事だ。

 

 オハンロンの行き当たりばったりの日々が面白い。長期ビザを手に入れるのに一苦労したりマラリアに罹ったりコンゴの旅は簡単ではなかった。最初の船旅では乗る船が頼りない。丸で巨大な筏のようだ。毎回この船旅では死者が出るという。

 

 コンゴには独自の慣習があった。呪い師や占い師に助言を求める文化があり勿論、一夫多妻制がある。主食はレイヨウの肉とマニオクとやし酒。湿地雨林にはピグミーが住んでいる。ピグミーの狩の成功を祈る踊りも興味深い。

 

 

アイスランド 絶景と幸福の国へ

 

 まだシーナとの旅を続けようと思う。本書のテーマは幸福についてだ。シーナの深い洞察力で日本と旅先の海外を比べて一体幸福とは何なんだろうと考える。物質的な豊かさと幸福は実は比例しないのだ。アイスランドの現地のガイドさんに日本は毎年三万人の自殺者がいますっと吃驚するような事をいうシーナ。確かに一昔前前まではそれぐらいはいたが確か今は2万人をきるぐらい。ガイドさんはアイスランドの人口が30万人なので毎年3万人が自殺したら10年でこの国の人々はいなくなってしまいますと言う。

 

 そもそも、何故今回の旅先がアイスランドになったのは何故だろう。北欧は総じて幸福度が高いと言われる。日本の無表情でマニュアル通りにしか喋れないレストランの店員や電車の中でスマホばかりいじっている人たちに違和感を覚えたシーナ。本当の幸福を確かめるためにアイスランドを選んだのだと思う。

 

 シーナは3週間、アイスランド中を駆け足で回った。アイスランドいう名前だけあって至る所に氷河があり、氷河から流れ落ちる壮大な滝があった。火山口の中まで見学させてもらった。シーナが敬愛する作家のヴェルヌの地底旅行のモデルとなった氷河にも登った。そして現地に住む家族の招きで一緒に食事をとった。。あなたにとって幸福とは何ですか?っと率直な質問のシーナに「安全に家族といる時に幸せを感じる」って答える鮫漁で働いている、ベネディクトさん。色々、考えさせられる読書だった。日本の家族の絆の薄さは異常だなと思った。日本に家族団欒で食事をとる家庭は今どれくらいいるのだろうか。

 

 

 

 

 

「十五少年漂流記」への旅 幻の島を探して

 

 椎名誠の読書量には驚かされる。彼の人生に決定的な影響を与えた本は子供時代に読んだヴェルヌの「十五少年漂流記」だったという。そこから彼の世界中の未知なる国に訪れる好奇心が生まれた。冒険好きなのだ。僕もそうだが、読書と旅行が好きな人は幼稚な人が多い。池澤夏樹さんもそうだし椎名誠も。シーナはヴェルヌを敬愛していて特に「十五少年漂流記」は何回も読んでいるそうだ。後に娘と共訳でシーナ親子の十五少年漂流記が新潮社から出版される。

 

 彼の好きな読書の分野は冒険記と探検記、漂流記。スケールが兎に角大きい。今回のシーナの旅で今まで漂流記のモデルとされていた南米のパタゴニアハノーバー島にまで足を運び、日本の田辺教授がヴェルヌの漂流記について論文で発表して新たにモデルになった可能性のあるニュージーランドのチャタム島を訪れる。日本からアメリカ、チリ、パタゴニアまで移動して、チリからニュージーランドまで移動するスケールの大きい壮大な旅だ。読んでいてとてもワクワクする。

 

 この本は田辺教授の論文へのアプローチであり学術的な論考だ。本書の中でノンフィクションと小説を問わず沢山の冒険記、漂流記に言及する。シーナの知識の豊富さに僕は圧倒された。ただ旅人はなく、とても思慮深い人だと思った。現地に訪れ、深く考察する。

 

 まず前半はパタゴニアの旅で後半はニュージーランドの旅だ。実際にハノーバー島に訪れる。ハノーバー島はそもそも近くに沢山の無人島があって孤島とは言い難い。少年たちが生き残っていく為には大変で荒涼とした土地だった。そしてチリからニュージーランドに移動して今度は田辺教授が実際の漂流記のモデルだと指摘するチャタム島を訪れる。シーナは少年たちが漂流したチェアマン島の地図を参考にして改めて実際のモデルはチャタム島だっと結論づける。チャタム島には漂流記で出てくる島の内陸に流れる湖、ラクーン(潟湖)があった。

 

 

 

 

そこのみにて光輝く

 佐藤泰志の「そこのみにて光輝く」を読了。青春小説だ。北国の海辺の小さな町を舞台に起こる若者たちの物語。若いと言ってももう三十路手前だが。ギャンブルがあって傷害事件があってセックスがあってタバコを吸う。悲しい雰囲気は全くなく、物語は淡々と進んでいく。佐藤泰志村上春樹とか中上健次と同世代の作家だがあまり知られてはいない。

 とても静かで素朴な小説だ。僕の好きなタイプの作家だ。高層住宅に囲まれた、路地裏の粗末なバラックにある一家が住んでいた。貧しく父親は寝たきりで、息子は刑務所に入っていた過去があり娘の千夏は水商売で生計を立てている。社会の底辺の一家だが家族の絆は強く一人息子の拓児は姉からも母親からも愛されている。とても小さな光だが輝いているのだ。もう三十年以上前に書かれた小説なので時代を感じさせるが人との出逢いを巧みに描いている。

 

 

タリバンの眼 戦場で考えた

 

 ジャーナリストの佐藤和孝氏の著書。今までチェチェンやシリア、アフガニスタン等、世界の紛争地帯を取材しているベテラン。中でもアフガニスタンの地域はほとんど訪れている。

 

 シーア派スンニ派、宗教の対立やらパシュトゥン人とハザラ人の民族間の対立。アフガニスタンはとても複雑。敵討ちの文化がある。そこにアメリカや西側の介入があったたらもっと混乱するのは当たり前。中村哲氏のような現地の習慣や文化に溶け込んでくれる人がもっと必要なのだ。

 

 世界の紛争地帯や戦争が起こっている場所では日々、子供や女性が無実の市民が死んでいる。不合理なめに遭っている人たちの姿を伝えるのがジャーナリストの仕事だ。本当に命懸けなのだ。佐藤氏の公私に渡るパートナーだった山本美香さんは2012年にシリアのアレッポで銃撃され亡くなった。

 

 2021年に米軍がアフガニスタンを全面撤退した後にタリバンが首都カブールを制圧。タリバン政権が誕生した。アフガニスタンには深刻な旱魃があって資源もない。争い事なんてしている暇はないのだ。タリバンに加入する若者たちの理由は仕事がないから。生きる為に仕方なくタリバンに入る。

 

 

インド神話物語 ラーマーヤナ

 

 感無量。毎回、大袈裟で恐縮だがこんなに面白いファンタジーは読んだ事がない。イギリスの指輪物語ではなくアジアの人々はラーマーヤナを読んだ方がいい。紀元後二世紀頃に誕生した物語で今まで多くの作家によって読み継がれてきた。地域や国、作家や年代によって、物語の粗筋は変わる。オリジナルはサンスクリット語で全7巻。僕は飽きっぽくて集中力が足りないので上下二巻に分けたデーヴァダッタ・パトナーヤク氏によるラーマーヤナが読みやすい。しかも著者によるとてもインド的な挿絵付きなので大変嬉しい。

 

 ラーヴァナと呼ばれる悪者によって誘拐され囚われの身となったシーター王妃をラーマ王子が救出する物語だ。一見した所とてもオーソドックスな物語だ。囚われの王妃なんて現代のフェミニズム的にはアウトだ。弱い女性を強い男性が救うなんて随分古い設定だ。でも古典だから仕方がないが。でも著者のパトナーヤク氏は上手く古典を現代的な物語にアレンジしている。シーター王妃が途轍もなく強い女性として描かれている。彼女は自分の意志で行動するとても責任感の強い自立した女性として描かれている。

 

 古典を現代風とミックスさせた著者はすごい。優秀な長男のアヨーディヤーの王ラーマとその弟のラクシュマナ。何時も王家を継承するのは長男だ。弟は感情的で短気な人物として描かれているのに対して兄は規律を重んじて国を統治する立場として民衆からとても尊敬されている。兄の生真面目では無く厳格ではない性格が民衆から慕われている理由だと思う。

 

 ハヌマーンと呼ばれる優秀な猿が兄弟をサポートとしている。真の実力者はこのハヌマーンではないか。ある時は蜂の姿になりまたある時は鸚鵡に変身する。変幻自在の猿でサンスクリット語も悠長に話す、知恵と勇気が備わったラーマの心強い味方だ。インド大陸から出て海を渡ってランカーと呼ばれる土地に橋を作ったのもハヌマーンだ。

 

 ラーヴァナが住むランカーは何処にあるのだろうか。著者によるコラムに拠れば今のスリランカらしい。物語の舞台はインドなのでそこから海を渡って南にある土地。確かにスリランカが妥当だと思う。

 

 この物語には人生の指標となる文言が散りばめられている。インドの人々は学校の教室でラーマーヤナを読み生き方を学ぶ。例えば自分を傷つけた相手を恨むのでは無く愛情を持って接する事。寛容さがとても大事だと理不尽な目に散々遭ったシーターは言う。シーターはランカーから無事に国に戻ってからは民衆の噂話が原因で彼女は国を追放される。しかし彼女は落ち込まず森での自由気ままな生活を楽しむ。

 

今まで知らなかったのを後悔するぐらい面白い物語。

 

 

 

 

 

 

ブロディーの報告書

 

 ボルヘスの短編小説11編。ボルヘスの短編小説はとても難解で読み難い。でもこの短編集は伝奇集よりは遥かに読み易い。ボルヘスは博学なのでラテンアメリカの歴史上の人物が沢山出てくる。訳注があるので有難い。決闘やらナイフやら居酒屋やらガウチョやらとてもマッチョな雰囲気が漂う短編集だった。ヘミングウェイ並の男らしさを感じた。とはいえラテンアメリカは広い!ボルヘスの出身地のブエノスアイレスは勿論、ウルグアイモンテビデオ、コロンビアのカルタヘナ、出てくる地名は南アメリカ全土に及ぶ。