狩りの時代

2016年、2月18日、津島佑子は亡くなった。彼女は死の直前まで書き続けていた。書くこと自体が生きることそのものだった。自伝的な要素が強い小説。津島が12歳の時に亡くなった3歳年上の兄の思い出と、差別の物語。そして大家族の物語だ。

少し整理してみよう。絵美子とダウン症だった兄の耕一郎。

若くして亡くなった父親の遼一郎。その兄の永一郎は物理学者で戦後アメリカに渡って研究している。彼の妻の寛子。2人の間には4人の子供がいる。この北村家は仙台に実家があり、一家はアメリカのシカゴ在住。

絵美子の母方は甲府出身で、母のカズミには兄弟と姉妹がいる。

長女のルイ子、長兄の創と次兄の達夫、末っ子のヒロミ。

達夫の息子の昇。創の息子のアキオ。

 ダウン症だった兄の耕一郎は「フテキカクシャ」だったのか。妹の絵美子は幼い時にいとこから聞かされた差別用語にずっと悩まされていた。何故そんな言葉をまだ12歳の昇とアキオは知っているのか。

実は叔父と叔母たちがヒトラーユーゲントを熱烈に歓迎していた事実をいとこから聞かされた。甲府駅ヒトラーユーゲントにバケツに入れた百合の花を渡そうしたヒロミ。達夫はヒトラーユーゲントの白人の少年と喧嘩をしそうになる。長兄の創は白人の少年への憧れのような思いを抱いている。

ナチスは「フテキカクシャ」や「アンラクシ」「ソンゲンシ」という言葉を使ってユダヤ人以外の人たちも殺していた。絵美子は、叔父たちが、ヒトラーユーゲントに憧れてたのに、戦後、映画の「アンネの日記」を観て泣く資格があるのかと疑問に思う。耕一郎は1人で生きていくのは難しかった。でもそれで人の価値が決まる訳でない。耕一郎は愛情深い人だった。それだけで充分だった。

絵美子のパリでの留学生活、夏休みにいとこ達と過ごした田舎での生活、そしてアメリカで永一郎おじ一家を訪れた旅行の記憶、過去を振り返って浮かび上がってくる家族の思い出。

 

狩りの時代

狩りの時代