ちいさな国で

 いや、傑作。ルワンダ内戦に関しての小説は今まで読んだ事がなかった。あっという間に読んだ。著者のガエル・ファイユの本職はラッパーと詩人というから驚き。非常に多彩な人物だと思う。

 ブルンジをご存知だろうか。僕は今まで名前ぐらいしか聞いた事がなかった。でもルワンダ大虐殺は知っている方も多いと思う。ルワンダブルンジはお隣同士の国。ファイユの父親はフランス人で母親はルワンダ人の難民でブルンジで生まれ育った。既に生まれた時から複数のバックグラウンドを持つ血を持っていた。13歳の時にフランスに移住した。戦禍を逃れるために。物語の始まりは主人公のギャビーがフランスで過去を回想する方法で幕を開ける。

 ルワンダ内戦の原因は何だったのだろうか。端を発したのは民族間の衝突だった。多数派のフツ族と少数派のツチ族の争い。そもそも民族なんて存在しないのに。フランスがルワンダでの影響力を誇示する為の偽りだった。内戦は激化してジェノサイドが起こった。有名なルワンダ大虐殺だ。隣国のブルンジでも戦争の嵐が巻き起こった。物語のギャビーの母親はツチ族だった。内戦にはドイツやベルギーの旧宗主国ルワンダブルンジに大きな影響力を持つフランスの思惑もあった。だから心情的にはフランスに快く思っていないルワンダの人もいる。多様性を体現したような存在のギャビー。白人とのハーフでヨーロッパでは黒人と呼ばれ、アフリカでは白人と呼ばれた。

 ギャビーはブルンジの首都のブジュンブラにある大きな邸宅で何不自由なく育った。袋道という名の立派な家が立ち並ぶ通りで自分と同様のお金持ちの同級生たちと遊んだ。皆友達の親は西洋人とのハーフだったり外交官や大学教授、ギャビーの父親のミシェルも工場の経営者だった。家にはお手伝いさんや料理人がいて甘やかされたお坊ちゃんだったが、やんちゃして自由気ままに幼少期を過ごした。袋道の先にある空き地に乗り捨てられた車の中で友人たちとタバコを吸ったりして過ごした。

 この物語は頁数が300頁ほどでそんなに長く無い小説だが、中身が濃い。ブルンジの自然、タンガニーカ湖の先にあるコンゴ共和国の壮大な山々、ギャビー少年の11歳の誕生日に狩猟で獲ったワニの肉を焼いて盛大に祝った思い出。ブルンジの文化的な側面の描写はとても愉快だ。一方で物語の後半には戦争の影が訪れる。政府からは自宅待機の命令が下され外には民兵カラシニコフを携帯して警戒している。とてもシリアスで緊迫感のある描写で実際に戦争を体験した人にしか書けないと思った。ルワンダにルーツを持つギャビーの親族は祖国の戦争に参加するためルワンダに行くが、彼らは帰ってこなかった。現地で戦死したのだ。ギャビーの友人の親も敵対する民族の争いに巻き込まれ死んだ。

著者のファイユは自分に起こった事を小説という形で整理した。決して忘れてはいけない過去を文字で記録するのだ。この小説は高校生が選ぶゴンクール賞に選ばれた。映画化もされていて去年、ヨーロッパで公開された。日本の映画館で観れる日は来るのだろうか。楽しみである。

 

ちいさな国で (ハヤカワepi文庫)

ちいさな国で (ハヤカワepi文庫)