あたらしい名前

 ノヴァイオレット・ブラワヨの「あたらしい名前」を読了。 すごい。ちょっと放心状態。アメリカで移民として生きる上での困難と喜び、貧しい祖国への恋しさと失望の葛藤を若い女性の視点で見事に描いている。

 著者のブラワヨはアフリカのジンバブエから若くしてアメリカに移住した移民である。物語の主人公のダーリンには著者の半生が投影されていている。前半はジンバブエでの少女時代のダーリンの物語だ。高級住宅街のグァバの木から果実を盗み、たらふく食べるダーリンと仲間たち。皆それぞれ外国に行くのを夢見ている。政治が腐敗し国家として存続できるのかも分からないジンバブエの経済状況。パラダイス地区に住むダーリン達は貧しくその日暮らしの生活だが、それでも子どもたちは遊びに夢中だ。ダーリンの父親は南アフリカに出稼ぎに行ったきり戻ってこない。彼女はアメリカに住む叔母を頼りにアメリカに移住する。

 後半はアメリカが舞台で現地の新しい友人とショッピングモールに行ったり一見アメリカの生活を楽しんでいる風に見えるが、アメリカに行っても決して豊かな生活を送れる訳ではなかった。キツイ、汚い、危険のいわゆる3Kの仕事に就く他ない移民としての立場に落胆するダーリン。私はこんな事をするためにアメリカに来たのではないと心の中で言う。ジンバブエとは遠く離れた国の文化や風習の違いに戸惑うダーリン。ジンバブエにあった伝統的な儀式はアメリカには無かった。ここでは高齢になった親を施設に預ける事の彼女はカルチャーショックを受ける。ジンバブエでは親は子に体罰を振るう習慣があったがアメリカでは虐待になると知って自分を抑えるダーリン。ある日孤独でジンバブエの友人にスカイプで連絡を取るが、祖国を捨てたと言われ、アメリカに逃げたと言われ思わず怒りでマックブックを壁に投げつけるダーリン。アメリカの豊かさに圧倒され喜ぶ面、ダーリンには色んな葛藤や苦悩があった。永住権(グリーンカード)を持っていないので一回ジンバブエに帰ればアメリカに再入国が出来ないので帰国に踏み切れないダーリン。ジンバブエに住んでいる家族には会えないのだ。

 僕はとても楽しく読ませてもらったが、著者が若い世代で物語も若者が主役だったからそんなに暗い気持にならなかったのだと思う。ジンバブエ独裁政権(現在は独裁者のムガベが退任)で政府が機能せず、ハイパーインフレを引き起こし世界的なニュースになった。貧しい国からアメリカに移住した若者はハンバーガーや移民料理店、物質的な豊かに吃驚するが、危険な仕事を請け負う移民の立場を痛感する。とてもシリアスなストーリーだが、著者のユーモアのある描き方がとても良かった。名作。

 

あたらしい名前

あたらしい名前