ある青春

 パトリック・モディアノの「ある青春」を読了。20歳の男女の出会いを描いた静かでとても美しい小説だ。モディアノは人物描写が上手いなと思った。熟練した技術の持ち主だ。兵役上がりのルイは都会に出たばかり。パリで鬱蒼とした日々を送るオディールの二人はパリの駅で出会いを恋に落ちる。しかしこれは恋愛小説ではない。そもそも告白した場面は無く気付いたら二人は付き合ってたという印象を受ける。タイトルが示す通りにこれは若者の青春を描いた物語だ。ルイとオディールはまだ20歳の未熟で受動的な若者だ。僕もとても共感した。自分が何をしたいのかよく分からず取り敢えず上京してパリを彷徨い歩く。まだ自分探しの段階である。2人の保護者的な存在であるブロシエとブジャルディ。行き当たりばったりのルイはブジャルディに仕事を紹介してもらいその日暮らしの生活を送る。オディールは歌手を目指し自分の歌った歌を録音したテープを持ち歩きレコード会社に出向くがやがて諦める。とても先行きの見えない不安定な二人だ。ある時、謎めいた資産家のブジャルディにお金の運び屋を頼まれパリからイギリスに船で渡る。青少年交流メンバーの一員に混じって。無事成功しパリに帰ってからも鬱々とした生活が続く。パリの華やかなイメージとは裏腹に二人の生活はとても寂寥感に満ちている。物語は淡々と進み最後は意外な展開をみせる。モディアノ中毒と言われてるほど熱心な読者がいるが、頷ける。一流の作家だ。読者をパリの場末の世界に誘う。ノーベル文学賞を獲ったのも納得だ。カズオイシグロといいとモディアノといいノーベル文学賞の選考委員会の好みがはっきりしたと思う。

 

ある青春 (白水uブックス)

ある青春 (白水uブックス)