パタゴニア

 チャトウィンパタゴニアを読了。すごい。紀行文学の傑作。情報量が多くて中身が一杯詰まっている。優れた学術書を読んでいるような気がした。それでも全然堅くない。小さな物語がいくつも入っている。全てはパタゴニアについて関係している。日本からははるかに遠い辺境な地なのでとても好奇心がそそられる。冒険小説も出てくるし実際にパタゴニアに移住したウェールズ人の話も聞ける。チャトウィンの自由奔放な書き方が目立つ。とにかく面白かった。どこの頁から開いても物語が読める。掌編小説の詰め合わせだ。池澤夏樹の解説も素晴らしい。彼はチャトウィンの心酔者だ。チャトウィンの著書は全部読んでいて彼に影響を受けてパタゴニア最果ての地のウスアイアで池澤夏樹は解説の原稿を書いた。チャトウィンを辿る旅をしていたようだ。私もいつかパタゴニアに旅行に行きたいな。実際にはほとんどが観光地化されていてあまり浪漫は無いようだが現地の生き物や本書に登場する街や景色を見てみたい。この一冊でパタゴニアの歴史や移民、考古学的な知識(チャトウィンは考古学を大学で学んだ) 原住民について大分詳しくなれる。いやあ。イギリス人の旅行好きは半端ないわ。チャトウィン自身もかなりの旅行家らしくアフリカやアフガニスタン、南米、地球上の全部の大陸に行った。彼は旅行家であり小説家でもあるのだ。途中、シェイクスピアテンペストについての学問的な検証があったり知的な探究心も大いに満たされた。シェイクスピアテンペストはマゼラン航海記から創作のインスピレーションを受けたようだ。伝説やら実話やら本当に沢山の物語が本書にはあるが、優れた作品である事には変わりない。チャトウィン自身が撮影した白黒写真も入っている。池澤夏樹がここまでチャトウィンに愛着を抱くのは彼の生き方だと私は思う。自宅には帰らず友人の家を転々としノートに物語を書いていく。絵画を観る鑑賞力があり美への追求心はあるが所有欲はない。だから旅に出る。まさに遊牧民、今で言うノマドなのだ。パタゴニアで彼は沢山の人に出会い話を聞いた。彼の祖母のいとこのチャーリー・ミルワードは船乗りでイギリスとパタゴニアを何回も往復した伝説的な人物だった。そのチャーリーへの想いもあってパタゴニアを目的地に選んだ。物語の後半はチャーリーの伝記で船でのエピソードはワクワクする。アルゼンチンとチリの政治的な問題も勉強になった。