あしながおじさん

 あしながおじさんの新訳を本屋で発見したので購入。訳者は岩本正恵さん。以前読んだ世界の果てのビートルズも彼女の翻訳で非常に読みやすい。本書の翻訳を最後に亡くなったしまった。とても惜しい方を亡くしたと思う。まだ50歳だった。ご冥福をお祈りします。

 恐らく8年ぶりぐらいにあしながおじさんを再読。もうすっかり内容を忘れていたので初読のような感想。今回の新訳は文字が大きくなってウェブスター自身が書いた挿絵も入っているので楽しく読んだ。改めて思うのはあしながおじさんってやはり名作だとおもった。しっかり伏線を回収して最後の驚きの展開は納得のいくサプライズだった。全ての辻褄が合う。

 手紙形式の物語は珍しい。それも相手は匿名で主人公のジュディに学費を援助してくれた全く知らない存在。ただ分かるのは脚が長くて大金持ちで身体が弱いというだけ。ジュディは毎月仮の名前のジョンスミス宛てに手紙を送る。勿論、孤児院から救ってくれて学費まで出してくれた恩人に感謝の気持を忘れずに。孤児院育ちの言わば、貧しい環境で育った1人の少女と代々何世代にも渡って継いでいった名家の篤志家との身分違いの恋愛物語だ。著者のウェブスターはマークトウェインとは親戚関係で作家としての素質があった。私の憶測だが彼女は不幸な境遇で育った人への同情心が強く彼らを励ますためにあしながおじさんを書いたのだはなかろうか。決して夢を諦めてはいけないと思った。

 蛇足だが本書でアメリカと日本が戦争が始まるのをジュディは新聞で知る。本書が書かれた時代は丁度排日移民法が制定されて日本人の移民を禁止し日米関係がギクシャクしてた時だ。同世代の芥川龍之介の短編にも確かアメリカといつ戦争を始めるのか?質問している場面があった。こういう発見は面白い。読書する習慣を身に付けて行くと本と本の繋がりを発見する事がよくある。これだから読書は辞められない。

 

あしながおじさん(新潮文庫)