半分のぼった黄色い太陽

 アフリカから凄い小説家が出てきた。チママンダ・ンゴズィ・アディーチェだ。ナイジェリア出身の作家で今はアメリカとナイジェリアを往復する生活を送っている。本書はビアフラ戦争を取り扱った歴史小説だ。あまり聞き馴れない名前だが海外ではナイジェリアの内戦とも言われている、南部に住むイボ民族がビアフラ独立を目指したがそれに反対するナイジェリア軍政府との間で起こった戦争である。フィクションとノンフィクションが混在した作品だ。本書を読んで気付いたのはナイジェリアの公用語が英語である事とナイジェリアの宗主国がイギリスである事だ。アディーチェは母国語の英語で本書を描いた。今まで欧米の英語で書かれた小説は多数、日本語に訳されて来たが今までナイジェリアの小説は見逃されていたように感じる。

 トルストイ戦争と平和ナポレオン戦争中のロシアの貴族や市民を克明に鮮やかに描いたが、本書もナイジェリアの文化や食事や飢餓、風習を丁寧に細かく描いている。アフリカの幼児の身体が痩せ細っているのにお腹だけは膨らんでいる写真をよく目にしたが、あれは幼児が栄養不足で発症するクワシオルコルという病名だ。本書は戦争と平和に負けず劣らずの名作だと思う。悲惨な戦争小説は大概暗い。それは欧米人でも日本人でも一緒だ。読んでいて悲しい気持になりいつも読後は虚無感しか残らない。しかしアフリカの人はどこか悲劇的な出来事を笑って弾き飛ばす前向きさがある。物語中に実の母親を戦争で失ったり親戚がナイジェリア兵に虐殺されたり大切な執事が爆弾で吹き飛ばされたり、他にもかなり悲惨な悪夢のようなことが起こる。しかし彼らはハミングをしたりしてどこかユーモアがある。これはアフリカの大地で育ったアフリカ人特有の陽気な性格もあると思う。そしてアディーチェのストーリーテラーとしての才能もあるのだと思う。並みの作家の長編小説はストーリーの展開が単調で途中で飽きてくることがよくある。今まで私も何度、読書を途中で放棄した事か。優れた作家はとことん読者を物語の中に引き込む。もっと続きが読みたいと思わせる。アディーチェは29歳にしてこの名作を描いたと言うのだから驚きだ。並外れて早熟なのだと思う。イギリス人作家のリチャードや主人公の双子の姉妹、カイネネとオランナやハウスボーイのウグウ、そして主人で大学に勤める学者のオデニボ。それぞれの視点から物語は語られる。オデニボとオランナの夫婦関係だったり、ひとり娘のベイビーの出生の謎だったり、ウグウが軍に徴収されてある事件が起きたり、リチャードとカイネネは恋愛関係なのに不倫が起きたり兎に角、色んな事が起きる。悲しいとか楽しい事。でも愉快でとにかく面白い。本書に出逢えて良かったと思える作品。

 

半分のぼった黄色い太陽

半分のぼった黄色い太陽