ソロモンの歌

トニ・モリスンのソロモンの歌を読了。面白かった。オバマ氏が我が人生最高の書と言ったのも頷けれる。600ページのほどの長編小説であるが毎日読むのが楽しみであった。長編小説は読み通すのに冗長だったり登場人物が多すぎて訳が分からなくなって混乱したり、途中で挫折することがよくある事だ。でもモリスンの小説はそんな事にはならない。登場人物が皆、魅力的だったり物語の伏線が最後には必ず回収されたりとても完成度が高いのだ。
ソロモンの歌の主題は、ずばり家族の物語である。主人公のミルクマンは三人兄妹の末っ子としてメイコン・デッド二世とルースの間に産まれた。家族はノットドクター・ストリートいう通りに住んでいてメイコンデッド二世は貸家を営んでおり家賃収入で生計を立てている。妻のルースとの関係は険悪だ。ルースは医者の娘でとても裕福で恵まれた環境で育った。メイコンデッド二世は家柄の良いルースとの結婚出来、一見とても幸せそうに見えたが、夫婦での争いが絶えなかった。実はルースは父親を異常な愛情を抱いており近親相姦でミルクマンが誕生したのではないか?と夫は疑っている。実際にそんなことはなかったが。ミルクマンの父親の妹にあたるパイロットは密売酒で生活を立てていて彼女は未婚で娘がいる。その娘のリーバも未婚でヘイガーという名の娘がいる。彼女たちは電気も通っていない暗い部屋で非常に乏しい生活を送っていた。パイロットにはへその緒が無く自分の名前を収めた四角い箱のイヤリングをつけている、一風変わった女性だ。パイロットは兄のミルクマンの父親とは長らく絶縁状態であり、息子のミルクマンに彼女に近寄るなと父親は忠告している。それでもミルクマンは親友のギターと一緒にパイロットに会いに行って叔母が料理を作ってくれたり友人のような関係になる。ギターは白人を忌み嫌い七曜日の会のメンバーで黒人が白人に殺される度に白人に復讐する裏の姿があった。ミルクマンの姉たちも厄介だ。長女のリーナと呼ばれるマグダリーンはミルクマンが子供の時におしっこをかけられた過去がありいつも弟に迷惑をかけられていたのでミルクマンを恨んでいる。コリンシアンズは大学出でフランスにも留学経験もある才女だ。しかし就職が上手くいかずに詩人のミス・グレアムの家でメイドとして働いていた。母親のルースにはグレアムの秘書として働いていると嘘をつき、彼女はそれを信じ切っている。
ミルクマンが22歳になった時にはヘイガーとは恋仲になっていた。しかし血縁関係のあるヘイガーとの恋愛にミルクマンは戸惑っていた。ヘイガーは狂おしいほどにミルクマンに首ったけだ。いつかその感情は殺意にまで発展しミルクマンを殺そうと決意する。それを知った母親のルースはもしものことが息子にあったら絶対に許さないと、ヘイガーに警告する。ミルクマンはパイロットと父親から彼らの過去について聞かされる。祖父のメイコンデッド1世は豪農であったが黒人というだけで白人に殺された。父親と叔母は自分たちの父親が殺され、母親もが亡くなった時に孤児になった。そんな彼らを助けてくれたのはサーシーという名の助産師兼、金持ちの家の使用人の女性だった。その家に隠れて生活していた二人だが、慣れない生活に嫌気がさしついにサーシーに黙って家出を企てる。実はその家の家主はメイコンデッドの父親を殺害した白人たちだったのだ。その後は林の中の洞穴で生活をする。しかし洞穴では老人に追いかけられ、パイロットと父親はその男を殺してしまう。しかし洞穴の中には何と金塊が置いてあったのだ。パイロットは金塊を持ち逃げして兄とは離れ離れになる。今もその金塊がパイロットの家に袋に吊るしてある事を父親から聞かされたミルクマンは親友のギターのと一緒に盗みに入るが警察に見つかり御用になる。しかも盗み出したものは金塊ではなく洞穴で殺害した老人の遺骨だった。弔いのためにパイロットが袋に吊るして置いといたのだ。何とかパイロットが警察に事情を話し無罪放免されたギターとミルクマンだったが、金塊への野望は消えない。
ミルクマンは父親の事務所で働いていたが、そんな生活に飽き飽きしていた。もう全ての事に嫌気がさしたミルクマンはパイロットと父親から聞かされた彼らの過去を探ろうと1人旅に出る。遂には金塊を求めて洞穴のあるダンヴィル目指し一人旅に出る。遂に父親と叔母の面倒を見てくれたサーシーに出会う。彼女は沢山の犬たちとまだ叔母たちを匿った白人の館に住んでいた。サーシーからミルクマンの祖父の遺骨は近くに住む住民たちによって洞窟に捨てられたと新たな情報を得る。また祖母の名前はシングと聞かされる。彼女から洞穴の場所を聞かされミルクマンは行ってみるが遂に金塊は見つからなかった。しかしサーシーの話を聞いてパイロットの持っている遺骨は見知らぬ老人のではなく死んだ祖父の遺骨だったと判明した。
まだ金塊の可能性を捨てきれずパイロットの足跡を辿り今度はヴァージニアに向かう。ヴァージニアはパイロットが自分の両親の生まれ故郷だと知って向かった場所だ。シャリマーの田舎の村にはソロモンという名の人々が沢山住んでいる。途中、ソロモンの雑貨商店でギターに追跡されていることを知る。ギターは金塊を狙っていてミルクマンを疑い彼を殺そうと狙っている。その頃パイロットの家ではヘイガーがミルクマンにフラれたショックからか熱をこじらせて死んでしまう。村で祖母のシングの親戚で出会うが有力な情報はえられない。しかし村で子どもたちが歌っているソロモンの歌を聞いた時にミルクマンの祖父のジェイクがソロモンの息子だと分かって再度親戚の家を訪れる。ソロモンという名の伝説的な人物の一人息子がミルクマンの祖父なのであった。彼はジェイクを残してアフリカに向かって空を飛んで行った。全ての家族の謎が明かされノットドクターストリートの家に帰りパイロットが持っていた祖父の遺骨をシャリマーに持って行きソロモンが飛んで行った谷にお墓に納めた。しかし金塊を狙っていたギターに狙撃されパイロットは死んでしまう。最後にミルクマンがギターに撃たれるか撃たれないかの場面で物語は幕を閉じる。

 

ソロモンの歌 (ハヤカワepi文庫)

ソロモンの歌 (ハヤカワepi文庫)