リア王

 シェイクスピアリア王を読了。漸く、シェイクスピアの四大悲劇を全部読めた。素直に嬉しい。やはりハムレットが一番有名な作品かもしれない。オフィーリアが発狂して川で溺死する場面がミレイの絵で再現されその絵はヴィクトリア王朝時代の最高傑作といわれている。私は個人的にはオセローが一番好きだ。嫉妬をテーマにあれだけ優れた戯曲は他に無いと思う。最後の全く予想外の結末も素晴らしかった。しかしリア王もオセローに負けず劣らず好きな作品だ。何ていうか、リア王に限らずシェイクスピアの作品は粗筋がよく出来ていて必ず伏線を回収して辻褄がよく合っている。つまり最初から最後まで完璧な作品が多いと思う。

 老いたブリテンリア王が長女と次女に財産や地位などの自分の持っている物を全部上げたのにも関わらず裏切られ嵐の中、王城から閉め出され路頭に迷う。そんな中、助けてくれたのは実直な性格でリア王と対立し一切の財産も領土も受け取らなかった末娘のコーディリアだった。本作は四大悲劇の中でも一番多くの人が争い死ぬ。最後の次々に登場人物が亡くなっていく様子はやや無理がありリアリティに欠けていると思ったのであまり物語の世界に没頭出来なかった。その点ではオセローの驚愕するが立派な主人公の死に方の方が私は好きだった。一般的にはハムレットリア王が最もシェイクスピアの作品の中で人気があると思う。だから一度は読んでおいた方がいいと思う。

 

シェイクスピア全集 (5) リア王 (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 (5) リア王 (ちくま文庫)

 

 

 

ハックルベリーフィンの冒険

  いや。面白かった。毎度毎度月並みの発言で申し訳無いが面白かったの一言に尽きる。本書はマーク・トウェインの最も評価されている作品だ。以前に新潮文庫から出ている方を読んだがちくま文庫の方が遥かにいい。まず挿し絵が美しい。やはり活字だけでは少々退屈だ。だから最近は挿し絵付きの本を読んでいる。加島祥造氏の翻訳がとにかく素晴らしかった。加島氏自身も作家であるのでマーク・トウェインの英文を同じ作家としてどう翻訳すればいいのか本書の解説で彼が試行錯誤した事がよく理解出来た。本書は完全版である。第一六章で大筏に乗ってどんちゃん騒ぎをしている男達の幽霊樽の話も漏れなく収録しているので嬉しい限りだ。最近、出版された柴田元幸氏の方ではこの部分は無かった。

 

 本書はミシシッピ川を舞台に黒人奴隷制度で黒人の自由が無かった南北戦争の前の時代の話だ。黒人奴隷のジムとハックは筏に乗って長く広大なミシシッピ川を自由を求めてどんどん南下して行く。ハックは呑んだくれの暴力親父から逃れるために巧妙な手を使って逃げてきた。一方のジムも使用人の主人のダグラス未亡人から逃げてきた。当時の黒人は一家の所有物とされていて黒人の逃亡はご法度でそれに加担する者も処罰され世間一般の常識で言うと良心に反するものだと考えられていた。ただそれでも自分の信念でハックは迷信深いが親切で優しいジムを救い出す。ハックの思慮深さには驚かされる。彼は何事も大衆の意見にとらわれる事なく自らの考え方で物事の是非を決める。黒人奴隷を助け出す事に良心が咎めたり悩んだりもするが、ジムが好きでもあったので一緒に逃亡劇を繰り広げる。少なくともハックからは一切、黒人のジムへの人種的偏見は感じなかった。ハックはとてもいい奴なのだ。名作なので翻訳は多数あるが、私はちくま文庫の加島氏の翻訳が一番好きだ。

 

完訳 ハックルベリ・フィンの冒険―マーク・トウェイン・コレクション〈1〉 (ちくま文庫)

完訳 ハックルベリ・フィンの冒険―マーク・トウェイン・コレクション〈1〉 (ちくま文庫)

 

 

 

テンペスト

シェイクスピアテンペストを読了。シェイクスピアの劇作は面白い。登場人物が立派に描かれていて読んでいて感心する事が多い。ミラノ大公のプロスペローは大変慈悲深いお方だ。実の弟とナポリ王の悪巧みにより孤島に流されたプロスペローは魔法や妖精のエアリエルを使い大嵐を起こし彼らを同じ孤島に遭難させる。ナポリ王達が飢えや仲間はぐれになり苦しんでいる事に同情して最後には彼らを許す。

「復讐ではなく、徳をほどこすことこそ、尊い行為」私の格言にしたい台詞だ。

 

テンペスト―シェイクスピア全集〈8〉 (ちくま文庫)

テンペスト―シェイクスピア全集〈8〉 (ちくま文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鯨

 海底二万マイルのネモ船長は温厚で冷静な人だった。しかし白鯨のエイハブ船長は激情に駆られて自らを破滅に追い込む狂人だ。私は海洋小説が好きだ。浪漫がある上に非日常的な船乗りの世界を味わえる。白鯨はアメリカ文学の古典として有名だ。上下で1000ページほどあるので、読み通すにはそれなりの体力が必要なので今までずっと読むのを躊躇していた。だが海底二万マイルを読破した勢いで白鯨も読んでみた。

 まず、本作の大筋はエイハブという名の熟練の鯨捕りご老人ががモービィ・ディックという名の頭部に白い大きな瘤がある怪物と恐れられている白鯨との戦いだ。エイハブ船長は片脚をモービィ・ディックに食いちきられたた怨念、復讐を果たそうと躍起になっている。モービィ・ディックへの敵討ちがエイハブの人生最大の目的だ。モービィ・ディックへの復讐心でのみ生きていると言っても過言ではない。しかしそれにしても一向に物語中にその怪物は出てこない。最後の3章でようやく現れるのだ。後は延々と鯨の博物学的な知識を聞かされる。著者の鯨学が物語のほとんどを占めているので読んでるのが苦痛になったり退屈だと思うかもしれない。それでも本書は読むに値するのだ。本書は膨大な旧約聖書ヨブ記や沢山の書物からの引用があるので本書を読むだけで鯨のみならず多くの知識が得られると思う。ただそれが本書が難解だと言われる所以かもしれないが。勿論、鯨の情報も満載で鯨の種類、古代から鯨が神聖視されて来たことや鯨から多くの脂が取れる事や白鯨の白さについてや、鯨の全長、骨、鯨の絵画について、鯨漁船の生活、鯨捕りに使う武器、捕殺した鯨をどう解体するか、鯨の味、捕殺した鯨を船の脇に吊るして航海する仕方や鯨についてのありとあらゆる事が理解出来た。

 物語の最後はとても悲劇的だ。ネタバレになるので詳細は伏せておくが、エイハブの無謀な航海、自滅行為に乗船員の全員がまきこまれる。語り手の一人を除いて。本書を読んでいてこの激情家の作家メルヴィルドストエフスキーにも通じる物があると思った。出版当初は全く売れずメルヴィルの死後、時を経て白鯨の評価が高まったようだ。古典として長く読み継がれる本にはやはりハズレはないと思う。私はエイハブ船長との鯨捕り、航海たまに出てくる他船との交流を大いに楽しめたと思う。楽しい読書体験だった。

 

白鯨(上) (新潮文庫)

白鯨(上) (新潮文庫)

 

 

白鯨 (下) (新潮文庫 (メ-2-2))

白鯨 (下) (新潮文庫 (メ-2-2))

 

 



 

再読 マクベス

 前回マクベスを飛行機内で読んだので、あまり頭に入ってこなかった。だから再読した。マクベスの破滅っぷりがすごい。妻に唆され、3人の魔女にも唆され最初は殺人を犯すのに躊躇してたのに終盤になると狂ったように暴れる。悲劇的な最期を遂げるマクベスの物語だが一方では善がマクベスという悪を倒すハッピーエンドでもある。シェイクスピアの作品は最初から最後まで無駄がなく面白い。

 

シェイクスピア全集 (3) マクベス (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 (3) マクベス (ちくま文庫)

 

 

 

背徳の人

アンドレ・ジッドの背徳の人を読了。ジッドの処女作である背徳の人は出版当時は不評だった。タイトル通り、キリスト教の教えに背く内容だからだ。主人公のミシェルは妻との新婚旅行で北アフリカ、イタリアを旅するが、ミシェルは妻を顧みずにアラブの少年に夢中になる。妻が死産したり病気になってもやはり自分勝手に行動する。挙句の果てには妻が危篤の時にはミシェルが好意を抱いていたアルジェリアの少年のお気に入りの情婦と交わる。行為が終わりホテルに戻ると妻は既に息絶えていた。だが本書は自伝ではない。ミシェルはジッド自身であると批判を受けたため弁明するためにジッドは序文を追加して書いた。読み物としては大変面白かったと思う。でも道徳的にかなり問題があったため不評だったのだ。

本書は三章から成り立っている。

 一章では新婚旅行で妻のマルスリーヌと一緒にアルジェリアとイタリアを旅する。病気を患っていたミシェルだったがは北アフリカの温暖な気候のおかげで徐々に回復する。アラブの美しい少年たちとの出逢いミシェルはとても幸せだった。特にミシェルのお気に入りの子はモクティールという少年だ。モクティールに自分のハサミを盗まれても彼は見て見ぬふりをして許してしまう。

 二章では自宅のあるパリに戻り学者であるミシェルは大学での講義と古代文明の研究をする。しかし仕事は捗らずパリの豪華な自宅で客人を招きサロンを開くが妊娠中だったマルスリーヌの体調は良くない。パーティーは開かず妻の面倒を見始めるが遂にマルスリーヌは死産してしまう。

三章では子供を失った悲しみを癒すのと妻の病気の回復のために再度北アフリカへと旅に出かける。途中、パリから南下してスイス、イタリアと渡っていき北アフリカに到着するが妻の容態がミシェルの希望とは裏腹にますます悪化していく。久しぶりにモクティールと出会い彼と夜中に遊びに出掛けてる間にホテルで妻は亡くなっていた。

 

背徳の人 (ちくま文庫)

背徳の人 (ちくま文庫)

 

 

 

 

 

 

海底二万里

 面白かった。ネモ船長との冒険の記録である。ワクワクしながら読めた。深海には何があるのだろう?海水にはどんな生き物が住んでいるのか?という素朴な疑問を考えた事がある人には海底二万里は間違いなく気に入ってくれると思う。遭難した海底に埋まっている船の中に財宝が眠っていたり海底を散歩したり、夢を見ているような美しさがある。世界中の海をノーチラス号で航海する。読了後、海図に多少は詳しくなった気がする。最後まで読み終えるのが寂しくもあった。挿し絵も美しく自分の空想力を補ってくれた。1871年に刊行された作品ながら古臭さを感じなかった。長く読み継がれる作品はやはり読者を魅了する楽しさがある。本書は図書館で借りたが家の本棚に置いておきたいので新しく買おうと思う。私がそういう風に思う本は滅多に無い。それぐらいいい作品だったと思う。

 

海底二万里(上) (新潮文庫)

海底二万里(上) (新潮文庫)

 

 

海底二万里(下) (新潮文庫)

海底二万里(下) (新潮文庫)