母と息子の囚人狂時代

見沢知廉である。私自身は中学校は一年の一学期を除いて全く学校には通わなかった。誰かにイジメられているという訳ではなく単純に勉強についていけなかったのが不登校になった理由だ。家に引きこもってドストエフスキーの本を読むようになってから見沢知廉の存在を知ったのだ。そして彼の言葉によって励まされた。「ヤンキー、アウトロードロップアウト、あんたらこそ文学を目指せ」と見沢知廉の著作の「日本を撃て」で述べてある。12年間の刑務所での償いの日々を過ごし、出所後小説家として文筆一本で生きている見沢知廉だからこそ云える言葉である。私も過去に色々あって一生罪の意識を背負いながら生きていかないといけない。見沢知廉ドストエフスキーよりも苦しみ悩み続けた偉大な人物だと思う。私もよく自殺出来たらどれだけ幸せだろう、死をもって全ての苦しみから解放されたいと思う時がある。劣等感、孤独感、乱れた私生活への罪悪感が苦しい。でも見沢知廉も苦しんでいたのだから私一人が辛いのではないとわかり安心した。母と息子の囚人狂時代は、母と子の絆により長期懲役刑に耐え得た男の話である。人間は一人では生きていけないのだ。見沢知廉には立派で理不尽な目に遭っても不満すらこぼさない強い母親が側にいたのだ。母と子の絆で駆ける虹の道。

 

母と息子の囚人狂時代 (新潮文庫)

母と息子の囚人狂時代 (新潮文庫)

 

 

 

夜と霧

 初版は2002年ではあるが私が購入したのは2016年の29刷のである。これだけ長く読み継がれている歴史的な名著なのだ。著者のフランクルは心理学に精通した人で学生時代にはフロイトに師事していた。学術的な専門用語も頻出するのでしっかり噛み砕いて読まないと理解出来ない。強制収容所でのいつ死ぬかわからない過酷な状況下でフランクルは内的な力で外的な圧力を乗り越えたのだ。収容所での凍死するような寒さや強烈な飢えの苦しみを彼は未来に目標を持つ事によって打ち勝ったのだ。本書にはこのような文言がある。「まっとうに苦しむ事は、それだけでもう精神的に何事かを成し遂げる事なのだ」もう一つ印象に残ったのは「わたしたちが生きることから何を期待するかではなく、生きる事がわたしたちから何を期待しているかが問題なのだ」っとフランクルは収容所で自分の思考を働かせ生き残るための知恵を身に付けたのだと私は思う。

 

夜と霧 新版

夜と霧 新版

 

 


 

眺めのいい部屋

フォースターの眺めのいい部屋を読了。すっかりハワードエンドを読んでからフォースターの小説にハマってしまった。翻訳の質があまり良くないので読む側にも読解力が必要になってくるが、その苦労を感じさせないほどこの小説は面白い。物語は主人公のルーシーがイタリアのフィレンツェを旅行する所から始まる。私自身もイタリア各地を旅行したがフィレンツェが一番好きな都市だった。私の個人的な感想だが教会や美術館よりもフィレンツェに住む人々が好きになった。非常に人生を楽しんでいるなという印象を持った。フォースターも自身のイタリア旅行の経験を小説の題材に使ったのだと思う。フィレンツェでのルーシーとジョージとの出会い。そこでの出会いで恋は実らなかったがイギリスに帰国後ルーシーとジョージは偶然の再会を果たす。ルーシーには既に婚約者のセシルがいたが、それでもジョージに魅かれている自分に戸惑う。ラストはハッピーエンドでやや平凡で何箇所か腑に落ちない部分もあるがそれでもフォースターの圧倒的筆力で最後まで読み通した。フォースターの人物描写とイギリスの豊かな自然描写は本当に美しいと思う。

 

眺めのいい部屋 (ちくま文庫)

眺めのいい部屋 (ちくま文庫)

 

 

 

ハワーズ・エンド

  フォースターのハワーズ・エンドを読了。いやあ面白かった。久し振りに読破できた本に出会えた。20世紀初頭にはイギリスから優れた小説が沢山誕生したがフォースターの作品もその一つだ。題名のハワーズ・エンドとはロンドン郊外にそびえ立つ邸宅の名前で物語のキーポイントになる場所だ。ドイツ系のシュレーゲル姉妹と資産家のウィルコックス家の人間関係を描いた物語だ。実質的な主人公はシュレーゲル家の長女のマーガレットで彼女の成長を読者も見届けることになるだろう。フォースターは階級や人種の違う人間同士の衝突や結び付けを描くのが実にうまい。それは彼自身の旅行経験や育ちに影響しているようだ。著者の経歴に少し触れると、フォースターは建築家の息子としてロンドンで産まれた。そして典型的な上位中産階級の家庭で育った。彼の生い立ちからすれば上の人間も下の人間も客観的に見ることが出来た。本書も中産階級のシュレーゲル家と地主である上流階級のウィルコックス家との階級差による隔たりをどうやって乗り越えて一つになるかをフォースターは書いたのだ。彼の代表作である「インドへの道」も人種間の問題を取り上げている。元々旅行好きだったフォースターはイタリア旅行の経験を下敷きに「眺めのいい部屋」を書き、インドにも複数回、足を運び「インドへの道」を上梓した。フォースターはヴァージニア・ウルフのブルームズベリ・グループのメンバーでそこでの集いでウルフ姉妹や他の知識人たちと大いに芸術や文学について話し合った。私が察するに討論好きだった人だと思う。本書は私の本棚にずっと残しておきたいと思う小説だ。

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

 

 

 

インドの旅 インド4大都市制覇!!

 3年ぶりにインドに行ってきた。デリーとコルカタにはもう前回のインド旅で行っているので今回はムンバイとチェンナイに行ってきた!!なぜ私がまたインドに行こうと決めたのかというと、日本人のビザが免除されたからだ。正確にいうとアライバルビザだがこれでわざわざ日本にいる間にビザを用意する必要は無くなった。だから私はムンバイの空港で2000ルピー払いアライバルビザを取得した。まず何よりも嬉しいのはムンバイに行った事だ。もうそれだけで大満足だ。ムンバイは素晴らしい大都市だった。世界遺産になっているムンバイの鉄道駅は立派な建物だったし、そこから近くにあるインド門も歴史を感じさせる壮大な光景だった。またインド門から歩いて直ぐの所にある博物館もすごく良かった。中庭も綺麗で館内のエントランスホールも豪華でよかった。また日本語のオーディオガイドもあるので作品を理解する上で助かった。インドは奥が深い。世界遺産が沢山あるし物価も安いので旅がし易い。

f:id:Yoshi8643:20170627231534j:image

ムンバイ鉄道駅。

 

f:id:Yoshi8643:20170627231630j:image

インド門。

 

f:id:Yoshi8643:20170627232136j:image

ムンバイの博物館 

 

f:id:Yoshi8643:20170627233017j:image

チェンナイから60キロ離れた都市マハーバリプラムにある遺跡

夜中に犬に起こった奇妙な事件

 科学と論理で書かれた冒険探偵小説である。全世界で1000千万部を超える大ベストセラーになり特にアメリカのアマゾンレビュー数が3000を超える人気ぶりである。あまり私はベストセラーは読まないが日本ではそんなに知られてないので読むことにした。主人公のクリストファーは将来科学者になりたい軽度の発達障害を持った少年である。数学も大好きで数学の上級試験を受けるため勉強している。家の近所の犬が殺された事でクリストファーが犯人を探し当てようと調査を始める。物語は意外な展開に進んでいき、読者は最後まで読まずにはいられないだろう。この小説の特異なところは数式が出て来たり素数が出て来たり理系の知識が随所に詰まっているところだろう。私は普段読まないジャンルの本だが最後まで楽しく読んだ。

 

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)

 

 

 

モーパッサン

 今まで短編小説は宮沢賢治の作品ぐらいしか読んでいなかったが、モーパッサンの短編は非常に面白い。最初にモーパッサンの代表作である「女の一生」を読んで彼のペシミズム的な世界観に魅了された。あまりフランス文学バルザックの短編とプルーストぐらいしか読んだ事は無かったがモーパッサンこそがフランス文学の代表者と思った。トルストイモーパッサンの「女の一生」を高く評価しユゴーレミゼラブル後に書かれたフランス小説の傑作だと褒めていたし当時のヨーロッパでのこの小説は大変売れた。でもやはり私は彼の短編小説の方が好きだ。「女の一生」はモーパッサンの短編を繋ぎ合わせた印象があって全体的に一つにまとまってない気がした。全体の構成が計画的に練られてないという気がする。でもこの作品からモーパッサンの他の作品にも興味を持てたので読んで損は無かった。モーパッサン自身が短編の小説家と知られているのでやはり私もそちらの方が好きだ。文筆家になる前はパリで政府の役人として働いていたのでパリを舞台にした短編も多い。特にセーヌ川シャンゼリゼ通りが物語の中に出てくるとワクワクしながら読めた。私もパリに旅行に行った経験があるのでそれを思い返しながら読み物語の世界に没頭した。取り敢えず読んでよかったと思える作家さんです。

 

モーパッサン短篇集 (ちくま文庫)

モーパッサン短篇集 (ちくま文庫)

 

 

 

女の一生 (新潮文庫)

女の一生 (新潮文庫)